【自分メモ】

フリーランス翻訳者の読書メモ

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英訳作業の現場で自分の存在意義について考えてみる 


数年前の話なんだけど、なんとなく思い出したから、ツラツラと書いてみます。
さて、最初にも書きましたが、数年前のおハナシ。

とあるご縁で、とある政府関係機関が発行している、とある冊子を英訳するというお仕事を受注しました。この冊子は過去に発行された物の改訂版で(何回目の改訂だったかは忘れてしまいましたが)、元原稿となる日本語版はもちろん日本語を母国語とする読者のためのもの。今回私が担当することとなった英語版は、英語を母国語としない(でも英語教育は受けているからそこそこ理解できる?)読者のためのものでした。基本的なリクエストは、(1) 原稿と一緒にやってきた用語集(この言葉はこうやって訳してね、と指定するためのもので、エクセル形式でやってくることが多いです)を使うことと、(2) 日本語版の文章の長短に関わらず、英語版はできるだけ短い文章+簡潔な文法+簡単な単語を使ってユーザーの理解を助ける、という2点でした(ちなみに両方とも、非常に頻繁に出されるリクエストです)。

さて、そんなわけでその冊子を英訳しました。用語集は使ったは使ったのですが、指定されていた英語には単語選択や文法面で間違っているものが多くありました。それでもクライアントさんによる指定なのでできるだけそのまま使う努力をしました。ただ、あまりにも致命的に間違っているものについては誤解を招く可能性が十分にあったので、正しい英語表現を提案し、それを使って訳出させて頂きました。

納品後は、クライアントさんとのミーティングが待っていました。案件を受注する前にミーティングがあるということは事前に知らされていました。その時に聞いた話によればミーティングの目的は、「英訳文の確認」だそうで。要するに、英訳文を読んでみて分かりづらい部分があった場合、それについてクライアントが質問をし、その場で私が答える、という感じなのでしょう。

そんなわけで、当日。

冷たい冬の雨が降ったその日、私を待っていたのは、そんなミーティングではありませんでした。ずらりとならんだクライアント代表者さん数名の前には付箋いっぱいの私の訳文。そのコピーが私にも手渡されます。そして、それを1つ1つ確認していくと・・・

もちろん、単純な確認事項もちょこちょことありました。「ここでは、どうしてこの単語を使おうと考えたのですか?」とか「ここは、こういう言い回しでも大丈夫でしょうか?」ナドナド。

でも大半は、私が手直ししてしまった、用語集内の表現についてでした。

その1つ1つについて私は、どういう理由で修正案を出したのか、修正しなければどういう誤解が生まれてしまうのか、事細かに説明しました。

そしてその1つ1つについてクライアントさんはこう言います。「間違っているのは分かっているのですが、今まで何年間もこれを使ってきたんです。ですから今回も使うつもりでいるんですが、いいですよね?」

・・・ンなアホな(驚)!!


と、大きな声で言いたかったのはやまやまですが、実際のところ「いいですよね?」と聞かれたら私は、「いいですよ」と答えるしかありません。

だって、私は業者ですから。
だって、原稿はクライアントさんのものですから。

クライアントさんが「こうしたい」と思えば、そうするまでです。

でも、同じような感じで「いいですよ」と何十回も答えながら、私は、「じゃあ私って、なんでここにいるの?」って頭の中でグルグルと考えていました。だって、いくら私が英語を母国語としない読者さんのことを考えて、できるだけ誤解の無いように、正しい英語で読みやすい訳文を作ろうと努力したところで、結局のところクライアントさんは、間違った英語を堂々と、しかも公式な文書に記載しちゃうんだもの。もうその気持ちが固まっちゃっているんだもの。

それならば翻訳者にわざわざ発注しないで、クライアントさんの組織の誰かが辞書を引き引きテキトーに(と言ったら言葉は悪いですが)翻訳しちゃえばいいじゃないですか。私、いらないじゃないですか・・・。

クライアントさんの手によって、目の前でどんどん品質が落ちていく私の訳文。それはもう辛くて辛くて、一刻でも早くその場を立ち去りたかったです。

私が訳したって誰にも言わないで欲しい。
次回はもう私に発注しないで欲しい。
いや、打診してくれても絶対断るんだもんね。

ミーティングの間、ずっとそう心の中で叫び続けました。

ミーティングからの帰り、そんな自分を慰めたくて、お気に入りのラーメン屋さんに行きました。フンパツして餃子も頼みましたが、心は晴れませんでした。天気も最後まで、雨降りのままでした。

結局その冊子は印刷され、現地へと送られ、私の手元にも数部がサンプルとしてやってきました。最終的にあんな品質の訳文になってしまって、現地の読者さんに申し訳なくて、そして私はその冊子を見るたびに辛くて。

本棚の、すっごくすっごく奥に隠しちゃいました。

どんなお仕事でもそうだと思うんですが、ホント、いろんなことがありますね。翻訳の仕事ではクライアントさんに「高い品質」を求められることが常ですが、今回初めてその反対を求められました。きっと一生に一度あるかないかの出来事でしょうね。

楽しい経験ではなかったけれど、翻訳の仕事をしていれば、そんなこともあるんだなあと勉強になりました。

もう二度としたくない経験ですけどね(笑)。

[おしまい]
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カテゴリ: 【5】 翻訳・語学 

テーマ: 翻訳いろいろ - ジャンル: 就職・お仕事

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Posted on 2008/09/06 Sat. 16:16    TB: --    CM: --

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