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フリーランス翻訳者の読書メモ

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『死すべき定め――死にゆく人に何ができるか』 



アトゥール・ガワンデ著の 『死すべき定め — 死にゆく人に何ができるか』を読みました。

私たちは、必ず最期を迎えます。

一般論としてそう口にするのは簡単だし、生物としてそれが当然のことであるのも十分理解しています。それでも、それが自分の近しい人のこととなると、もしくは自分自身のこととなると、そうも冷静になれないのが私たち人間でもありますね。

この本では、現役外科医であり「ニューヨーカー」誌のライターでもある著者が、「死すべき定め」に直面した人々の「よりよい生活、より幸せな最期、医療にできること、医療にできないこと」を、彼自身の臨床経験、インタビュー、そして家族の闘病経験に基づき探っていきます。本書にはさまざまなエピソードが紹介されていますが、「高齢化」と「重篤な病(がんなど)」が主なトピックです。

ありきたりな表現ですが、医療は人類史上かつてない進化を遂げました。その進化は今この瞬間も続いています。医療は「人の命を守る」こと、そして「そのために治療を行う」ことを目的とし、さまざまな病気やけがに対して「これがダメなら次はあれ」と次々に手を打てるようになりました。それは患者のため。患者とその家族の幸せのため。医者はそう信じて治療方針を立て尽力してくれるのでしょう。

では、そうやって施される医療は、死にゆく人に対しても、その家族に対しても幸せを与えることができるのでしょうか。本人は治療よりも家族との穏やかな日々を求めているかもしれないし、体力があるうちに最後に一度思い出の場所に行きたいと願っているかもしれません。痛い思いをするなら死んだ方がましだと思っている人もいるかもしれないし、リスクの高い治療はしたくないと思っている人もいるかもしれません。そんな人たちの気持ちを聞くことなく、「とにかく頑張って治療しましょう、ご家族のためにもとにかく長く生きましょう」と例えば望まない手術や副作用の強い治療を勧めたとしたら・・・医療の正しい姿かもしれませんが、善き姿でしょうか?

この本では、著者が「医療の限界」を実感する場面が何度となく描かれています。それは、「現代の医療では治療しきれない」という意味ではなく、「積極的な治療を施さないことが患者のQOLの向上につながる」という意味での医療の限界です。いつ治療すべきか、いつケアをすべきか。それを知るには、患者が望んでいることは何か、患者が怖れていることは何か、患者が何を犠牲にできて何を犠牲にしたくないのかを、患者に聞ききちんと理解する必要があるといいます。患者が人生の最期にその人にとって最も大切なことを達成するのを援助できるヘルスケアシステムをどうやって築き上げるべきなのか、と著者は問いかけます。

患者のよりよい生活、そしてより幸せな最期を実現するには、もちろん家族も重要な要素です。ただ、患者やその家族は医師よりも余命をうんと長く見積もる傾向があるといい、また、患者家族はたとえ医師が「手の施しようがない」と言っても「いや、まだ何かできるはず」と強く思う傾向があるといいます。何が言いたいかというと、近しい人の「死すべき定め」を受け入れるのは非常に難しい、ということです。それに、死にゆく家族と死について話をし、何を望むのかなどを聞き出すのは、精神的な苦痛が伴います。私たちの多くがほぼ本能的に避けたいと思う話題ではないでしょうか。

それでも、この本を読むと、勇気を持ってその話をし、精神的苦痛を乗り越えることで、「より幸せな最期」を実現できるはずという思いにいたります。今は日本でも「終活」という言葉があり、自分のもしもの時のためにエンディングノートを書く人も増えました(私も書いています)。エンディングノートでいうと「自分が望む治療方針」みたいな項目について、あらかじめ家族同士が理解をしておくことが非常に大切だと感じます。例えば人工呼吸器を装着したいのかそうでないのか、胃ろうの造成は希望するのかしないのか、などです。もし家族が患者からあらかじめ「治療(または手術)をして、これができるようになるなら、する」といった希望を聞いておけば、患者の代わりに家族が治療(または手術)についての決断をしなければならない時に、最良の選択をすることができるでしょう。

本を読み進め、一つとして同じものはない「死にゆく人」のストーリーに触れ、その人たちの悲しみと幸せと絶望と希望の言葉に何度となく涙し、本を読み終え、その瞬間、「あ、この本で私の人生は少し変わったな」と思いました。

これまでは「死は避けられないのに、死の話題は避けたい」と思っていました。でも本を読み終えた今は、「より幸せな最期をめざしてきちんと話し合おう」と考えるようになりました(実際にその時が来た時にその勇気が出せるかまだ分からないけど)。

本書あとがきによれば、Frontline (米PBSのドキュメンタリー番組)でこの「死すべき定め」の特集が組まれたそうです。Frontlineは好きでたまに観ているのですが、この本に関する番組が作成されていたのは知りませんでした。紹介くださった訳者さんに感謝しながら、さっそく観てみたいと思います。
URL: http://www.pbs.org/wgbh/frontline/film/being-mortal/
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カテゴリ: 【6】 読書あれこれ

テーマ: モノの見方、考え方。 - ジャンル: 心と身体

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Posted on 2017/03/22 Wed. 01:42    TB: --    CM: --

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