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フリーランス翻訳者の読書メモ

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『認知症の「家族」と暮らす技術』 



奥村 歩 著の『認知症の「家族」と暮らす技術』を読みました。

著者は岐阜県にある「おくむらクリニック」の院長であり、認知症専門医。3万人以上の認知症患者の診療と、患者家族の生活相談から得た経験と知識をベースに書かれたこの本には、自宅で認知症の家族と暮らすコツや知っておきたいポイントがぎゅっと凝縮されています。

本書では、認知症患者に共感する技術や、早く正確にさりげなく家族の認知症に気付く技術、家族が知っておくべき医療知識等々が、エピソード形式で語られます。そこに(1)~(5)の選択肢が提供されていて、読者は「認知症の家族に運転を諦めさせるには?」、「認知症の疑いがある家族を病院に連れていくには?」、「認知症の家族が同じことを何回も聞くときの対処は?」といった、さまざまな場面に対する最適解を考えながら読み進めます。どの選択肢が適切でどれが適切でないのか、それはなぜなのか、専門知識がなくてもするすると頭に入る分かりやすい解説がありがたいです。

家族の認知症に気付く技術では、著者が作った症状チェックリストが紹介されています。専門医が使う認知症診断テストにはこども向けのような問題が含まれているために、患者さんの自尊心を傷つけてしまうことがあります。一方、著者作成のチェックリストは、著者のクリニックを受診した認知症患者の家族が「初めて家族の異変に気付いた時の症状」をもとに作られているため、ふだんの生活の中でさりげなく観察しチェックすることが可能です。

本書にはその他に、認知症の基礎知識と認知症の本性(自我と見当識の中枢である"Default Mode Network (DMN)"の観点からの説明)、薬の使い方の技術(投薬技術のみでなく、現在処方されている主な薬の説明も)、家族の心構え(おすすめの生活習慣や認知症の方と暮らすための"3S" (Science: 症状の理由の理解、Sympathy: 当事者の気持ちへの共感、Synergy: 専門家や専門組織との連携と協働))なども紹介されていますが、私がこの本で一番「これは使える!」と思ったのは「家族が知っておくべき医療知識」の章でした。

この章では、一般的にはまだまだ認識されていない、認知症患者の医療的SOSのサインが15個紹介されています。認知症の方を日ごろからよく観察することで、思わぬ異変をいち早く察知することができます。この章も(1)~(5)の選択肢方式で最適と思われる対処を学びます。例として扱われているのは、心不全、肺炎、胆のう炎、胸椎圧迫骨折など。どの異変についても基本知識として知っておきたいのは、認知症の方に元気がなかったり、不機嫌だったりすると要注意であること(赤ちゃんと同じですね)。また、認知症(特にアルツハイマー型認知症)では症状が急に進むことはないので、「急にボケた」と感じたら異変のサインであること。こういった知識は医師による著書ならではですね。この本のように要点がコンパクトにまとまっていると、何かあった時には、ネットで調べるよりも少ない手数で必要かつ正確な情報にたどり着けるかもしれません。もし私の家族が認知症になったら、この章だけでも手元に置いておきたいです。

この章のもう一つの素晴らしい(と私が思う)ところは、15のエピソードを読みいろいろと考えを巡らせているうちに、問題の切り分け方と、解決フローの考え方が分かってくるということです。これは認知症に限らずふだんの生活にも当てはまると思うのですが、ある問題が発生した時に、それを解決しようとすると、どの情報を解決の糸口にするべきかを考え、数ある解からもっとも最適なものを選ぶ必要がありますよね。この章にはそれぞれのエピソードでそのプロセスが描かれているため、何度も読み込んでその思考方法に慣れておけば、本書で紹介されていない異変が発生してしまった時にも、あわてずに適切な判断を下せるのではないかと思います。

全編にわたり、患者家族の気持ちにぴったりと寄り添う著者の優しさを感じることができました。もちろん実際にお会いしたことはないのですが、多くの患者さんが遠くからでも岐阜県のこのクリニックをめざしてやってくる理由が分かるような気がします。この本に出会ったのは偶然でしたが、(本を通じてだけど)この著者に出会えたのは幸運でした。他の著書も読んでみたい!

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カテゴリ: 【3】 認知症 

テーマ: 認知症いろいろ - ジャンル: 心と身体

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Posted on 2017/02/08 Wed. 09:00    TB: --    CM: --

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